2017年12月15日金曜日

ブルックナーの描く神性(後編)

お待たせしました!前編の続きです。


Te gloriosus Apostolorum chorus,
 Te Prophetarum laudabilis numerus,
 Te Martyrum candidatus Laudat exercitus.
 誉に輝く使徒のむれも御身を、
褒めたとうべき預言者の集まりも御身を、
潔き殉教者の一軍皆もろともに御身をたたえ

再び主題旋律のユニゾンへ。神キリストを賛美するものとして、新たに「使徒」「預言者」「殉教者」が加えて明示され、神への賛美の普遍性が一層強まる。賛美する主体としてのこれらの存在を力強いユニゾンで歌い上げる。執拗にTe(あなた)の語で始まって神を讃える存在を述べてゆく。それぞれの‘Te’は違う拍で入っていき、歌い手には正確にブレスを合わせる必要性。Te Martyrum…では主題ゼグエンツがD-mollに上向し、感情の高ぶりを表す。主題ユニゾン多角性をもって歌い上げることにより、キリストへの思いが一層強めて謳われます。

 Te per orbem terrarum sancta confitetur Ecclesia,
 Patrem immensae majestatis;
 Venerandum tuum verum et unicum Fillium;
 Sanctum quoque Paraclitum Spiritum.
 全地にあまねき聖会は共に賛美し奉る
 御身限りなき御いつの御父を、
 いとたかき御身がまことの御独り子と、
 また慰め主なる聖霊と。

 Te…Ecclesiaでは主題のゼグエンツのユニゾンがさらにEs-durに上向し、神への強い賛美をfffの大音量で歓呼します。‘confitetetur’の語で和音に展開し、EcclesiaでF-mollのIの和音で終結。一転、Patrem…から再びユニゾンに戻るとともに、ダイナミクスがPに。G-mollの厳粛な雰囲気の中で、「御父」「その御父の御独り子=イエス・キリスト」「主なる精霊」を讃えます。すなわち、キリスト教の神の定義・三位一体です。これまでf系でひたすら力強く神を賛美していたのに対比して、p系のユニゾンにより、キリスト教で最も根本的な教義たる三位一体を静かに印象付け、厳かに神への賛美を表現しているのです。(4thステージ技術系である私個人的に、このコントラストがキリスト教義の神秘性が感じられて最も大好きです。)

 Tu rex gloriae, Chiriste.
 Tu Patris sempiternus es Filius.
 御身、栄えの大君なるキリストよ、
 御身こそは聖父のとこしえ聖子。

 この部分は第1曲Te deum laudamusの大きな佳境でしょう。ここから神の呼称が‘Te’から‘Tu’に変わっています。これまで述べてきたひたすら賛美する強い思い、賛美する様々な存在、三位一体の教義などを踏まえ、さらに神を賛美したいという気持ちが高揚し、親近性の高まった呼称となっています。そしてここではじめて直接的にChriste=キリストの名前が呼ばれるのです。神を賛美することとは、すなわちキリストを賛美することである、と。fffのダイナミクスでChri(G♭)→-ste(D♭)のコードで歓呼。

 Tu ad liberandum suscepturus hominem, non horruisti virginis uterum.
 Tu devicto mortis aculeo,aperuisti credentibus regna caelorum.
 世を救うために人とならんとて、おとめの胎をいとわせ給わず、
 死のとげに打ち勝ち、信ずる者のために天国を開き給えり。

 Tu ad liberandum…で受胎告知を重々しい合唱のアカペラで描き出します。さらに、Tu devicto…はキリストの受難です。Tu(あなた) devicto(とげ)をベース先行で、それを追いかけるようにしてテナーがTu devicto aculeoの歌詞を繰り返し歌い、さらに女声がテナーのメロディーに追随してTu devicto mortis aculeoを歌います。ベースの執拗に繰り返されるLowG音や、テナーの跳躍によりキリスト受難の苦痛を重々しく描き出しています。そしてaperuisti…の部分。ひたすらに賛美されたキリスト、受難という死のとげに打ち勝ったキリストは天国を開くことができたと述べています。‘sehr ruhig’=「とても静かに」の指示の下、まずppのアカペラでソプラノ先行→他3パートという掛け合いでこの歌詞を歌うことで静寂の中でのキリストへの祈祷を表しています。そして次はオケ伴奏も加わり、FlとObが奏でる半音階に乗せて、ベース→アルト→ソプラノ+テナーの順で変則的なフーガ形式で同じaperuisti…の歌詞を歌います。

 Tu ad dexteram Dei sedes, in Gloria Patris.
 Judex crederis esse venturus.
 御身こそは、天主の右に坐し、御父の御栄のうちに。
 裁き主として来りますと信ぜられ給う。

 前の変則的なフーガ部分はregna caelorumでtuttiとなりcrescendo。そして再現部となり、fffの大音量のダイナミクスの中で強烈な主題のユニゾンを歌い上げ、キリストを荘厳に賛美し、第1曲が終結します。

 以上がTe Deum第1曲の概観となります。ブルックナーが描き出す徹底されたキリスト賛美の世界観が少しでも垣間見えたでしょうか。ちなみに第2~5曲を簡単にハイライトすると、第2曲 Te ergo は、キリストに思いをはせ犠牲となった殉教者を救ってくださいという祈りを、テノールソロを中心とするソリスト四重唱により静かに歌うアリア。第3曲 Aeterna fac は、神よ、あなたを信じ犠牲となった人々を数えてくださいという懇願をffのダイナミクスの中、D-mollのテンションコードで執拗に叫び続ける、半ば狂気ともいえるキリスト信仰。第4曲 Salvum fac は、第2曲を踏襲し、ソリストに合唱が加わる祈り。そして終曲 In te Domine speravi では、「In te, Domine, speravi(主よ、われ御身に依り頼みたり)」「non confundar in aeternum(わが望みは永久に空しからまじ)」という内容を、華やかなソリスト四重唱→合唱tutti→合唱フーガ→ソリスト四重唱→合唱tuttiという形式で歌い継いでいきます。クライマックスでは1stテナーのhiGisと2ndテナーのhiAisの全音のぶつかり、ソプラノのhiCのロングトーンなど、声楽的に尋常ではない高音域で展開されています。
 ロマン派宗教音楽の最高傑作Te Deumの中でブルックナーが描き出す神性を、クリスマス・イヴという特別な日に、音楽の神アポロンの名がつく我々の合唱とソリストの方々で歌い上げる時間は、かけがえのないものとなるでしょう。12月24日、アポロン定演にて、こうご期待。
(了)
(混声合唱団アポロン 68期テナー4thステージ技術系・孫指揮者 佐々木純哉)


-定期演奏会情報-
12/24(日) 第55回記念定期演奏会 @神戸文化ホール大ホール
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また、定演の告知動画も出来ました。ぜひご覧ください!


-過去の演奏が聴けるようになりました-
第53回定期演奏会の第1ステージ(平行世界、飛行ねこの沈黙)
第54回定期演奏会の第3ステージ(嫁ぐ娘に)
の演奏がYouTube上で聴けるようになりました!ぜひどうそ!

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